隣に立つ彼女の顔が
ギリギリ判別できる程度には明るい
ライブハウスに僕はいた。
「一曲目は何が来ると思う?」
「ボーイフレンドかなぁ」
「僕はくちびるで。賭けな。負けたら焼肉奢り」
「両方はずれたら?」
「近かった方の勝ち」
「近いって何?」
「文字数とかカタカナかどうかとか
いくらでも競うことはできる」と僕は時間潰しが
丸わかりの返答をする。
照明がストンと落ち、
地面を揺らすほどの
重低音が観客の声をかき消した。
振動が鼓動だと勘違いするくらい
胸が高鳴っている。
前奏が響くと腕や背中が震えた。
その瞬間スポットライトがaikoを照らし出した。
透き通った美しい声が耳に刺さる。
普段の僕は、周りから
「喋ったことがない人からするとまじめに見えるよね」
と言われるくらいにはおとなしい。
おちゃらけたことは言わず、
表情も大きくは変わらないし
感情を体で表現することもない。
そんな僕が
先生から必ず発言権を獲得したい小学生のように
両手を挙げ、手を振り、跳んだ。
少し声も出した。
これが「プロ」の力だと思うと
体が小さく熱く震えた。
ライブハウスにある花道を
aikoが歩いてくる。
花道の先端に近付くにつれ
後ろにいた観客がどんどんと押し寄せてくる。
その波に乗れたというよりも流された事により
あと数メートルというところまで
近付くことができた。
首筋から鎖骨に滲む汗は
スポットライトの反射により
ダイヤモンドさながらの輝きを見せた。
その色気に僕だけでなく、
会場の男は釘付けだっただろう。
リズムを刻む度に、
乱れた髪から飛び散る汗の雫もまた
美しかった。
きっと、ルーブル美術館で
モナリザの隣にこのワンシーンが飾られていたら、
世界的絵画に目もくれずそちらを眺めてしまうだろう
なんて言うと、僕の第一印象である真面目さを
感じてもらえないかもしれないので
この辺でやめておこう。
aikoが曲を積み重ねる毎に
会場も温度を上げる。
数曲が歌い終わり、MCが始まる。
ヒートテックを着た汗だくの男性がいじられる。
クリスマスイブに前歯を折った男性が慰められる。
紅白でラグビー選手の膝に座った事をつっこまれる。
aikoは深夜にビールを飲みながら
iPadで録画したライブ映像を観るらしい。
「映っているのはaiko。ここにいるのもaiko。
と思うと涙が出るんよ」と言った。
僕はこの言葉が重く心に刺さった。
きっと僕が死ぬまでこの言葉は忘れないだろう。
目の奥がじわじわと熱くなった。
ただこれはaikoが涙を流す理由とは
少し違うかもしれない。
小さな惑星に光を照らす太陽のように、
目の前に集う大衆に、
エネルギーを与える”一人”は
果てしなく大きな存在だ。
プロの本気をまじまじと体感していることに興奮した。
大衆の熱いまなざしを一斉に浴びても
堂々とした態度で振る舞う姿は
この上なくかっこよかった。
憧れた。
価値をもらう側の人間ではなく、
与える側の人間になり、
多くの人の心を救いたいと思った。
”夢を叶えたい人が集まるブログ”なので
少し強引だったが、こうした思いも綴っておいた。
あの言葉から後のことは
はっきり言ってあまり記憶に残っていない。
それほどまでにあの言葉に
色々と考えさせられたからだ。
その内容を書き始めると、きっと
大学生の頃に書いた論文よりも多い文量になるので
辞めておく。
ありきたりな表現だが、
夢のような時間で、刺激的な夜だった。
aikoが最後の挨拶にこけそうになったことや、
タンクトップを着た青年が汗をかくほどの空間に
ファーのついたコートを着たおじさんがいたことや、
右前の男の子がライブ終わりにココイチに行くとか行かないとか
そういったどうでもいいことは、今思い出した。
ライブが終わり、
会場から出ると
「賭けは私の勝ちだね。
メロンソーダ。
文字数も近いしカタカナだった。」
「なんのこと?」ととぼけてみた。
P.S.
伝えたいことも定まらないまま
書き殴ったので、
ただの自己満足の日記になってしまった。
でも、
あの時の臨場感を思い出したい時のために
今の記憶を残しておいただけだ。
と開き直ってみることにする。
ここまで書いておいてなんだが
このページを開いた人に
読まなくてもいいよと伝えてあげたいな。
おはようとおやすみが重なりそうなので
そろそろ終わる。
コメントを残す